僕の人生に豊かな色彩と、この本に深い味わいをもたらしてくれた、僕の両親、ダイナとジェレミア・オダウド、そして全てのひねくれた素晴らしき友人たちへ捧ぐ。 ※個人への謝辞は割愛します プロローグ 序章 僕が子供のころ、シャーリー・バッシ―みたいになりたかった。 滅多になかったけれど、兄弟たちがみんな寝室の外に出ている時を狙って、僕はカーテンを閉め、明かりを消し、シャーリーのレコードを掛けた。 僕は部屋の中をぐるぐると気取って歩き、腕を揺らし、こぶしを握り、体をくねらせ、頭を左右に振りながら歌った。 ※シャーリー・バッシ―「Never,Never,Never」の歌詞 I'd like to run away from you - and if I could, You know I would, But I would die. あなたから逃げ出したいの、本当なら 分かっているのね、いつでも出来るって でも、そうしたら私は死んでしまうわ ▼参考「ネバー・ネバー・ネバー」シャーリー・バッシ―。
僕の最初となるパフォーマンスは、玄関前の階段の上に立ち、近所に住む、なじみのお年寄りへ向けて歌ったものだった。 ※マリエ・ロイドの「My Old Man Said Follow the Van」 My old man Said follow the van, And don't dilly dally on the way ... 旦那さんが言う トラックに付いて来いと 寄り道なんかするんじゃないよ ▼参考「My Old Man Said Follow the Van」
音楽は、寂しい時や、孤独感を埋めてくれる唯一の友達だった。 僕のような子どもには、ポップ音楽の世界は、打って付けの場所だ。 学校で少年たちは、マーク・ボランと、ミッキー・フィンを (※Tレックス のメンバー)「この変態め」と呼んだ。 でも、僕はマーク・ボランとミッキー・フィンの写真を集めた。 僕にとって、彼らはロックンロール界のロミオとジュリエットだったから。 僕は女の子と一緒にいることを好み、ビーズを交換すれば、アクセサリーを壊したり、一緒に夢を話し、時には意地悪もして、新しい流行歌を歌ったりした。 女の子たちは、延々と話し続ける能力を持ち合わせており、良い聞き役でもあった。 僕は決してステージに上ることを諦めたわけではなく、いつでも脚光を浴び、独占することを望んでいた。 僕はサッカーも木登りも嫌いで、むしろシャーリー・テンプルの歌、「こんぺい糖のお舟」を特に好んでいた。 ▼参考「こんぺい糖のお舟」 映画「輝く瞳」から「On The Good Ship Lollipop」
僕はいつも、テレビの子供向け番組を見るために、学校から走って家に帰り、オーディション番組に出演しようと、何度も手紙を書いた。 ある時、父さんが古い50年代のレコードプレーヤーを見つけ、それを僕たちの部屋に置いてくれたけれど、それを使っていたのは僕と、兄弟のリチャードだけだった。 他の兄弟たちは、音楽に見向きしなかったから。 僕が最初に聴いたレコードは、メラニー・ソフィカの「アレキサンダー・ビートル」「心の扉を開けよう」と、クリスティの「イエロー・リバー」、シェールの「ジプシーズ、トランプ・アンド・スィーブズ」だった。 僕は出来るだけ音量を上げ、一緒に歌った。 母さんと父さんのレコードも古くて、フランク・シナトラや、パール・ベイリー、ペギー・リー、ジュディ・ガーランドなどがあった。 それらがチャート入りしていないのは、気にも留めなかった。 僕が聴いた、どの曲からも色んな言葉を覚え、もし聴き取れなかったとしても、自力で解決したんだ。 土曜日の午後は決まって、古い映画の「王様と私」や「南太平洋」、バスビー・バークレー監督のミュージカル、1933年の「ゴールド・ディガーズ」「四十二番街」を観に出かけた。 僕はフレッド・アステアとジンジャー・ロジャース、アリス・フェイが大好きだった。それから、ローズマリー・クルーニー、シャーリー・テンプル、ミッキー・ルーニー、アル・ジョルソン。 僕は踊り回り、歌ったんだ。 I'm gonna wash that man right outa my hair. And send him on his way ... ※メアリー・マースティンの歌 和訳は割愛 僕は無駄な足掻きでも、他の子どもと同じようになろうとしたけれど、自然とにじみ出る女性らしさを隠しきれなかった。 僕が覚えている、最も古い記憶は6歳のころのものだ。 デイビーおじさんと、ジャンおばさんの結婚式で、僕はページボーイを務めていた。 膝丈の赤いビロードのズボン、黒いカマーバンド、白いフリルのシャツ、何より最高だったのは、大きな銀のバックルが前についた黒いエナメル靴だった。 僕はこの装いがとても誇らしく、小公子のように気取って歩き回った。 結婚式のあと、僕の靴は、いとこのデニスに与えられてしまった。 僕は泣きながら、何度も叫んだ。 「どうしてあの靴を、僕がもらっちゃダメなの?学校に履いて行ってはダメなの?」と。 この日の出来事は、のちのちに何度も家族や親せきに、語り継がれることになった。 もちろん、母さんは、まだ幼い息子がそんな靴を履いて学校へ行くことは許さなかったから、毎日が結婚式だったらいいのに、と、毎日どんなに願ったことだろう。 僕が8歳かその辺りに、喘息持ちになった。 母さんが言うには、見るからに僕は神経質になっていて、地元の医者は、ほこりの所為だと診断したけれど、僕の家はすでに、ほこりなんて無数に舞っていたんだ。 僕たちはいつも、父さんの機嫌と、母さんの涙にビクビクしながら暮らしていた。 それが、何よりも僕に影響を与えたのだろう。 月曜の朝はいつも、喘息の発作がひどく引き起こされた。 おそらく、学校へ行くのが恐怖だったのだと思う。 母さんは、僕を洗濯機の上に抱き上げてくれて、僕は深く湯気を吸いこむことが出来た。 その前の年に、僕は適切な投薬の治療を受けた。 子どもの頃、あだ名をみんなそれぞれに持っていた。 僕のあだ名は「ホモ」や「女男」が、覚えている中で、だいぶ早くに付けられていた。 子どもは残酷になれるものだ。 まだ能力も未熟な時に、人の痛いところを突くことが出来るんだ。 「お前、ホモだ」 誰がこんなことを彼らに教える? 母さんと父さんは、早くに妖精のピクシーと、エルフについて教える。 だけど、決してこうは教えない。 「普通の男は、女性を愛する。だけど、そうでない人もいる」 子どもたちは、この事を自分自身から見出してくる。 Georgie Porgie pudding and pie Kissed the girls and made them cry When the boys came out to play He kissed them too He likes it that way. ジョージー ポージー、プリンにパイ 女の子達にキスして泣かせちゃった 男の子達が出てきて遊んだら 同じようにキスをした 彼はそうするのが好き ※マザーグースの一節「ジョージー・ポージー」の替え歌。 ジョージが子どものころに、囃し立てられたものと思われる。 「ホモ」であることは、まるで伝染病に罹ったようなものだ。 冗談、からかい、世間話、大雑把に伝わったもの、青色は男の子、ピンク色は女の子。 生まれる前から墓に入るまでの生涯は、生殖の本能に従って辿るようになっている。 両親は、決して自分たちの息子がゲイになる等と、思いも及ばない。 彼らは未来設計を、それ以外の不測の事態に備えて立てている。 僕は、この世界において僕のようなのは、他に誰にもいないと考えた。 後になって、自分は異質な存在だと思うようになり、小さい頃は特に、僕は孤独に包まれていた。 僕は可愛らしい子どもだった。 誰もが「お嬢さんのお名前はなに?」と聞いたが、母さんは、きつい口調で言い返した。 「息子のジョージです」 「過敏で神経質な子」だとみんなに話し、母さんが僕を説明する時は、いつもそうだった。 僕は家族の中でピンク色の羊みたいな、浮いた存在だった。 僕には、たくさんの女の子の友達がいた。 女の子が好きだった。 僕はただ、肉体的に応えることが出来ないだけなんだ。 その他の事ならば、僕は完璧なボーイフレンドだった。 嫉妬もするし、独占したい、自分勝手にも振舞える。 だけど実際に、求められる機会を得ても、全然ダメだった。 愛情を向け、キスをして、抱きしめる。 僕はうまく出来ないことを恐れた。 僕は、全然楽しめないし、失敗することが不安だったが、それは、いつかは避けられない事を知っていた。 リチャードの18歳の誕生日パーティが、僕たちの家で行われた。 たとえリチャードが、僕たちに居て欲しくなかったにしても、すごく楽しくはしゃいでいた。 初めて酒に酔って(ビールをレモネードで割った、シャンディーを飲んだ) 初めてディープキスを経験した。 僕は隅に引きずり込まれ、ブレンダ・リッチーから始めてきた。 彼女は、女優のダイアナ・ドースのような18歳の子で、大きくて、母親のように優しく、ふさふさの赤い髪をして、出産が出来る方の唇で、彼女は僕のほとんどを飲み込んだ。 僕はその間、ずっと例の事を不安に思っていた。 それが、たやすい事だとは到底信じられなかった。 次の日、母さんと一緒に買い物に出かけたとき、バスの中で、ブレンダに出会った。 彼女は大声で「私のお気に入りのキスする人は、誰だったかしら?」と言い、 僕は身をすくめた。 だけど僕は、かなり鼻が高かった。 僕は男の子に、より関心を持つようになった。 彼らは僕の強い真の欲求を、浮き彫りにさせた。 それは、まだ早い時期から事実として認識していたものだった。 時々、夜に僕は目が覚めたまま横になり、考えることと言えば男の子、男の子、男の子。 実に神々しい、エドワードの兄弟、バリー・フォーリーの事を。 その地域では憧れの的で、いつも彼のジッパーで遊んでいた。 (※フリスビーのことか?) 学校に来れば、女の子たちはみんなバリーに夢中になり、僕も夢中になった一人だった。 僕は雑誌の「コスモポリタン」から切り抜いた絵を持っていて、マットレスの下に隠していた。 それは、裸の男性がプールサイドに手を掛けて、出ようとするシーンで、彼のお尻は、最高に美しく丸みを帯びて、筋肉質だった。 僕は何か月も、その絵によだれをたらすほど虜になり、いつか、こんな男性に会いたいと願っていた。 僕は、誰かを完全に信頼したことはなかった。 みんなが僕のことを、笑いものや話しのネタにしていると確信していた。 男の子よりは、女の子の方がまだ信用できたけれど、男の子なら、マイケル・クロームだけが友達だった。 彼は明らかにゲイで、はっきりと、あらゆる兆候を示し、時に彼自身から、自虐的な冗談を言い、嘲笑の的になっていた。 マイケルは、そばかすの顔で、スチールウールのような髪をしていた。 彼はいつも不機嫌そうに口をとがらせて、大きな学生カバンを肩に引っ掛けて、酔っぱらったランウェイのモデルみたいな歩き方で、その辺をぶらぶらと散歩をしていた。 子どもたちは大声で囃した。 「女もののハンドバッグ持ってるみたいだ」 僕と違って、彼は黙ったままで、何か言い返すことは無かった。 この黙ったままの態度は、多くのトラブルを招くことになったが。 マイケルは、僕がゲイだと思わないだろうかと不思議に思い、彼が、それについて何とも思わないのかどうか疑問だった。 それについて何か話し合うことは出来なかった。 マイケルはゲイだと見受けられるけれど、もし僕の勘違いだとしたら? もしかして、ただの芸術家タイプなだけなのかも? 誰かに聞いて答えを出すのは、大きなリスクを伴った。 心を打ち明けてしまったら、計り知れない迫害に遭うというリスクを。 マイケルは、2つ3つ通りを隔てたグレゴリー・クレセントに住んでいた。 僕と同じ小学校と、日曜学校だったので、一緒に通っていた。 僕は十中八九、自由に飲めるオレンジジュースや、カップケーキの誘惑に駆られていただけだった。 オダウド家は、ゆるいカトリックで、玄関近くの広間に飾った法王の肖像画の隣には、ボクサーのモハメド・アリが並び、良いバランス具合だった。 教会には、僕らがずっと小さいころに時々行く程度で、兄弟のジェラルドは、ミサの間中、ずっと彼のズボンを下げていて、それっきり僕らは行っていない。 マイケルの家を見て回ったとき、新たな世界へ足を踏み入れた気分で、身を引き締めたキリスト教徒の心地だった。 僕はマイケルの家族には「良い」印象を受けたが、彼らは、僕を悪い影響がある奴だと見なしたと思う。 なぜなら、ある日曜日、マイケルを日曜学校に誘って行ったときに、僕は大きなベージュの婚礼帽子(ファシネーター)をかぶり、リチャードとお揃いで、母さんのキャメルのコートを羽織り、バカ丁寧に振舞った姿は、マイケルの母親の目にはホラーに映った事だろう。 彼女は僕をお茶に引き留めておき、まっすぐ電話へ向かい、僕の母さんへ連絡を取って、僕の服装について、それとなく注意を促した。 「息子さんの服装は、イギリス国教会からとやかく言われるのではないかしら」 母さんは「あの子の好きなようにさせておいて下さい」と答えた。 僕の見た目は、正常な人の中に入ったら、みんなに笑われ、困らせられ、恥ずかしい想いを僕がすると思ったのだろう。 それは、彼女の大きな誤算となる。 以前、僕の学校用のコートを買いに行ったとき、僕はパッド入りで、フード付きのグリーンのパーカーが理想だったのに、母さんは痛々しいほど僕に気を回して、無難なもので納得させようとしていた。 「マーク・ボランが着ていそうなものよ」と、母さんは言った。 だけど、マークならもっと良い雰囲気の物だと知っていた。 マイケルは家族と一緒にエルサムへ引っ越して、僕は、マイケルがいなくなってからは学校へ行かなくなった。 マイケルは突然連絡してきて、電話番号を教えてくれた。 僕は彼に電話して、訪問する仕度をした。 僕が化粧を少しずつ始めたのはこの時からで、髪を真っ黒に染め、ツンツンに逆立てた。 マイケルも似たような感じにしていた。 彼の両親は僕に告げたことは、彼はいつも通勤する電車の中で、変な男に絡まれ、嫌がらせをされているという。 マイケルの家族はげんなりして言った。 「可哀そうなマイケル。もう二週間も仕事に行けないの」 この事があってから、マイケルはストレートだったのだろうと僕は思った。 それから何年かして、ウェストエンドを歩いているときに、ガリヒョロ体型のネリーが、犬を連れ、細かい歩幅でもったいつけたように、僕の方へ歩いてくるのを見つけた。 彼が近づいてくるにつれ、僕はハッキリと、マイケルに嫌がらせをしているのは、このネリーだと悟った。 そしてもし、彼がいい加減に止めないのなら、絶対に良くない。 ネリーが黒人の男性と、部屋をシェアしていると話したとき、抱いた疑念が確信に変わった。 哀れなマイケルも、まさかと思っただろう。 この本の読者諸君は、君の兄弟や身の回りの男の子たちが、学校でいつも女の子の事について話すのを耳にしたことがあるだろう。 おっぱい、おっぱい、おっぱい、そればっかり。 あいつはアバズレだの、こいつがアバズレだの。 思考回路のパターンは4つ。 「会った、さわった、ヤッた、もう忘れた」 男子は、性的体験をやたら誇張して自慢し、マ〇コとチ〇コを連呼、フェラチオと挿入の事で頭はいっぱい。 君が参加したら、たちまち朱に交われば赤くなって、いつも警戒し、万一に備えて嘘を見破られないように、事実から遠ざけようとする。 僕は、どんなに頑張っても、周囲には男らしさのかけらも見つけることは出来なかった。 サッカーとラグビーに、僕が参加する機会があったとき、プレイしようとすればする程、みんなは僕を外を押し出した。 試合をする際、チームを組むときには、誰も僕と組もうとする人はいなかった。 みんなは大声で口々に言った。 「あいつ抜きでやろうぜ、あんなヤツいらねえ」 僕はつまはじきにされ、同じようにのけ者にされたデブと一緒にいた。 学校にいた最後の年、僕の兄弟のエドワードと仲良しで、気が強く、モテモテのジミーとテリーと知り合った。 僕はセントピーター・ユースクラブにいて、ビリヤード台のところにたむろし、眺めて楽しんでいた。 そこへ男の子の一人がやってきて、僕を押した。 ジミーは、僕を守るために飛び込んで割って入り、「彼に手を出すな」と言った。 僕の心臓は跳ね上がった。 それから程なくして、僕たちは友達になった。 ジミーはデビッド・キャシディが殺し屋になったような顔で、ねずみ色の艶やかな髪をして、スキー場のスロープみたいな、なだらかで先がツンと尖った鼻と、小柄で引き締まった身体と、完璧な丸みのお尻が、ぴっちりした学用ズボンに包まれているのが分かるだろう。 僕は彼に、すっかり夢中になってしまった。 バカバカしい行為に見えるけれど、魚釣りに行くときも、ジミーの好きなサッカーチームのチャールトン・アスレティックを観戦する時も、僕たちは、いつも壁を越えて行ったんだ。 彼が壁をよじ登り、乗り越える所を見るのが、僕にとって一番好きな瞬間だった。 僕たちの友達づきあいは、1年間続いたけれど、おかしな事に、僕たちには何の共通点も無かった。 僕は彼らと一緒に行動して過ごし、週末にはジミーとテリーどちらかの家に居て、そこで夕飯をご馳走になった。 結局、なぜ彼らが僕をそばに置いたのかは分からず仕舞いだ。 普通の男の子たちは、僕から十分に距離を置きたがった。 彼らは僕が近寄りがたい存在だと分かっていて、依然として、僕という存在から自分自身を保護するためのようだった。 それでも、僕は男の子の周りを走り、認めてもらおうとしていたのは、おそらく、少しの間だけれども、彼らのようになりたかったんだと思う。 その当時、僕は神経質でみすぼらしくて、新しい友達が出来ればそこにいて、また一方に出来れば飛んで行き、誰かと一緒にいようと、なりふり構わなかった。 それは子どもの頃に限らず、時を変え、場所を変えても同じで、僕は、他の誰かになりたかった。 学校を辞めてから、ジミーとテリーに会うのをやめ、何か月か経ったある日、エルサムのハイ・ストリートでテリーとばったり出会った。 僕の髪はヘナ染めで、目にまぶしい輝くオレンジ色だった。 テリーは僕をまじまじと見て、「誰かの真似?クエンティン・クリスプのやつとか?」と言った。 僕は最大級の侮辱を受けた。 僕はお世辞なんかいらない、とようやく答えた。 彼は僕に、これから結婚するんだ、と話してくれた。 「そりゃ良いね」と僕は言った。 彼は、僕を招待することもなく立ち去った。 彼に拒絶されたことに僕は傷つき、僕は、見世物の奇形人物のような気持ちになった。 そして、もう彼らは戻ってこないと、よくよく分かっていた。 テリーの友達のデイブは、何かするたびに僕に恥をかかせた。 デイブはずる賢くて、ウェストエンドに着くと、いつもいなくなった。 彼の財布には、常にたくさんのお金が入っていて、新品の服を着ていた。 その当時、僕はそれを何とも思わなかった。 僕がデイブと正面切って会ったのは、意外なことにレスタースクエアにある男娼クラブだった。 その時の僕は、立派なドラァグ・クイーンになっていた。 僕の人生において、デイブほどみじめな男娼はいないだろう。 ちょっと悲しくなった。 そこにいる僕の格好は、口紅を引き、まつげにマスカラをして、ハイヒールを履き、デイブがそこで働く姿は悲愴すぎて見ていられず、僕は少し雑にパフォーマンスをしてやり過ごした。 彼は、僕のようなれっきとした同性愛者じゃなかったから、自分自身を偽って、お金のために働いていた。 僕がいつも想い描いているのは、ゲイの世界はひとつになって、大きくて幸せな家族であること。 でも、すぐに分かったのは、ゲイは残された領土と同じようなもので、彼らは境界を引き、分割していた。 多くの同性愛者は、自分が「普通」であることを望んでいる。 何をするにしても、彼らは外見上だけは普通に出来る。 木こりやバイク乗りかのように扮装し、異常なほど必死にジェームズ・ディーンや、マーロン・ブランドに似せて、リーバイスの白いTシャツを着て、女装したオカマを見下した。 僕の人生は、誰かに罪悪感を抱かせてきた。 僕たちは、生まれつき悪いもの、という感覚とともに成長してきた。 社会は、僕たちに居場所を与えてくれず、今すぐ消え失せて欲しいと願っている。 僕たちがゲイだと知っている両親でさえ、それについては、普段から意見も、話し合うことも無い。 彼らは、考えの余地から締め出し、僕たちの人生で、非常に大きく、重要な部分を共有することを拒否している。 そして罪の意識は、いっそう深くなっていく。 多くのオカマたちは言う。 「私たちの両親が、どう思おうと気にしないわ」 でも、これは本心じゃない。自分自身を偽っているだけなんだ。 僕たちのほとんどが、両親からの拒絶を乗り越えられないし、気にしないはずがない。 僕たちが何であろうと、両親に愛されたいと願っているから。 何が僕たちをゲイにしたんだろう? いつも考えるのは、僕らがゲイに生まれついたことと、なぜそうなったのか。 ホルモンが化学的に不安定だったせいならば、僕たちはもう、どうすることも出来ない。 今の段階では、これが原因とは言い切れないけれど。 怒りに任せて、僕は母さんと父さんを怒鳴りつけたこともある。 「僕がゲイなのは、親の手落ちなんだ!父さんと母さんが僕を創り出したんだ!」 僕が言っておきたいことは、同性愛者は、多くの異性愛者なしでは存在できないこと。 両者のうち、ひとつが君なら、もう一方が僕たちになる。 僕たちの両親は責任を感じている。 父親たちは、自分の男らしさが反映されると考え、母親は、どこで間違えたのか分からないままだ。 僕の父さんは、完全なる男性だ。 息子がゲイだなんて、どんなに最低の悪い夢であったことだろう。 父さんは、僕の両肩をつかんで言った。 「何であろうと、それがお前だ」 誰が彼を納得するようにしたんだろう? 僕が無意識のうちに、彼をそうするようにしていたんだろうか? ゲイの大多数は、僕もその中に含まれるけれど、ステレオタイプな権威ある者に惹かれる。 例えば、軍人、警察官、船員など。 多くの同性愛者は、国防軍の一員と行きずりの夜を過ごしている。 僕たちは、制服を着た男性に目がないのさ。 僕の理想で、性的な空想をするには、ショーン・ペンみたいなタイプが良いな。 アグレッシブで、情熱的で、嫉妬深く、そして僕を守ってくれる。 僕の潜在意識が、いかにも男はそうであるべきだと僕に語りかけ、その考えと共に僕は大人になり、今では家具が飛び、涙を流し、郊外に住み、妄想と幻覚に取りつかれた、精神病患者なんだ。 プロローグ、ここまで。
アルバムは1980年「ザ・ゲーム The Game」の「セイヴ・ミー」です。 失恋の曲と言えば、やはりブライアン・メイ作。 メイ氏はこの曲について、こう語ります。 Brian May wrote: "Save Me" about a friend whose relationship with his wife had ended. 「セイヴ・ミー」は、奥さんと関係が解消されてしまった友達について書いた曲だよ。 おや、メイ氏ご自身の体験じゃないんですね。 どういう経緯で書くことになったのか、不思議ではあります。 (傷口に塩にならないだろうか、と俗人のねこあるきは勝手に心配してます) 蛇足ですが、「Save Me Trust セイヴ・ミー・トラスト」という名前で、メイ氏は野生動物保護団体を立ち上げているから、「Save Me セイヴ・ミー」で検索すると、その手の話がよく引っ掛かりました。 ▼アニメーションと、鳩の翼が美しいオフィシャルPV。 このPVを最後に、フレディは「グレート・プリテンダー」に至るまで、ずっとヒゲになります。
"Save Me" 和訳 It started off so well 付き合い始めは順調で They said we made a perfect pair 運命の出会いだね、と祝福され I clothed myself in your glory and your love 君が手にした栄光も、ひたむきな献身も すべては僕だけのものにして How I loved you, 深く君を愛し How I cried 幾度となく傷ついて The years of care and loyalty 二人で重ねた年月も、固い契りも Were nothing but a sham it seems すべては仮初めだったのだろうか The years belie we lived a lie 眩いほどの過去と未来は、露と消え失せ 気付けば、偽りの中で生きてきた I'll love you 'til I die 僕は君との愛に、生涯をかけているのに Save me, save me, save me 誰か、この手を取って 僕を救い出して I can't face this life alone 独りきりでは生きていけない Save me, save me, save me 深く沈む、僕を引き上げて I'm naked and I'm far from home 成すすべもなく、家路にはほど遠く The slate will soon be clean 二人で語りあった夢は、まもなく醒め I'll erase the memories, 僕はすべて無かったことにするよ To start again with somebody new 誰かと新しく出直すために Was it all wasted? だけど、ただの浪費だったの? All that love? あの愛の日々が? I hang my head and I advertise 虚ろな頭をぶら下げて、広告を出そう A soul for sale or rent 「この魂、売却と貸与」と。 I have no heart, I'm cold inside 心ここに在らず、身は凍てつき I have no real intent 気力も枯れ果てて Save me, save me, save me 救って、ここから僕を救いあげて I can't face this life alone 独りの人生は耐え切れない Save me, save me, oh 僕を見て、傍へ来て I'm naked and I'm far from home 何も持たず、帰るべき家は遥か彼方に Each night I cry, I still believe the lie 夜ごとに涙を流し、まだ嘘を信じている I'll love you 'til I die この愛に生涯を捧げる、との言葉を Save, save, save me, 救いを、僕に Oh, Save me, ああ、手を差し伸べて Don't let me face my life alone 僕を独りきりにしないで Save, save, save me, Oh 空を切る、どうか翼を授けて I'm naked and I'm far from home 僕には何もなく、待つ者もいない