TAKE IT LIKE A MAN - 和訳 ボーイ・ジョージの自叙伝 第十章
前回、ジョージ少年は初めて男性の恋人が出来ましたが、今回は二人目のお相手です。
学生時代は女の子と付き合う努力もしましたが、芽生えた自我が確立していく過程のようです。
CHAPTER 10
チャプター10
15歳の少年が、お金も持たず、午前三時のヒースロー空港をほっつき歩いているのは、すごく危なっかしく見えたにちがいない。
実際、僕はかなり浮いていた。
僕の髪はミルキーホワイトで、ツンツンに尖らせてあり、着ている服といったら、ペンキが飛び散った模様をしていて、さらにピンや、チェーンや、南京錠がところ狭しと飾り付けてあった。
僕が空港の3番ターミナルに到着するやいなや、警察官が僕を取り押さえたんだ。
僕は、この身に降りかかった運命を、信じられないでいたよ。
で、ヒースローの警察署に、強制連行されるためだけに、地下鉄、バス、電車を乗り継ぎ、何マイルも歩かされた。
まさか、こんな事になるなんてね。
昨晩、家を出るときには、いいアイディアだと思ったんだけどな。
マイクが、南アフリカから戻って来るっていうから。
僕はマイクを、驚かせたかったんだ。
ちょっとしたサプライズってやつ。
警官は僕を問い詰めた。
「ほらボク。さっさとその男の名前を言ってしまえば、何も難しいことは無いんだ」
「その男は、どの便でやってくるんだ?」
僕は、二人の警察官を、おずおずと見上げた。
連行された部屋は、暴力的に感じるほど明るかった。
僕はすっかり疲弊していて、そして恐怖を感じていた。
「見て分かりませんか?僕は同性愛者なんです。仮に、誰かが僕に何かしようとしたって、まず無理なんですよ」
「ボク、分からないかね?君は未成年なんだ。君が今から会おうとしている紳士殿は、重大な罪を犯そうしているんだよ」
僕はすっかり、頭を抱えてしまった。
この身に、いったい全体、何が起きているんだ。
「我々はね、ボク。君の供述が必要なんだよ」
「なんで?僕が何したっていうの?どうして、すぐ解放してくれないの?」
僕は、万が一にも母さんに見つからないように、マイクからの手紙を持って歩いていた。
彼は、南アフリカから2,3通、僕宛てに手紙を送ってくれてたんだ。
『俺はそっちに戻るのが、待ちきれないよ。いつも夢見ていたことを全部やろう』
それと、アブノーマルな事とか。
マイクが送ってくれた手紙に、彼自身の直筆サインを入れていなかったことを、僕はどれほど神に感謝したことか。
手紙には、いつも「愛するMより」だけで、住所も書いてなかった。
警察官は、僕を身体検査し、手荷物を調べて、マイクの手紙を見つけ出した。
そして、僕の両親には絶対に言わないから、と約束した。
で、警官たちは、僕の年齢と、いかにこれは深刻な犯罪であるかと、僕が受けている取り調べは、必要な手続きである事を僕に告げた。
僕は泣き出してしまった。
「なんで親に言わなきゃいけないの?」
僕は、父さんに何をされるかが、本当に恐ろしかった。
マイクが逮捕されてしまったら、どうなるの?
何が起きているっていうんだ?
とにかく、これは大ごとになっていて、多くの問題をはらんでいることは、想像に難く無かった。
警察官は、僕を問い詰め続けた。
で、明るすぎる取調室から出されて、およそ30分ほど僕に休憩を取らせたあと、再び取り調べは続いた。
「ほら、ボク。その男の名前を言うんだ」
「僕は何も言わない」
マイクは、僕にとって二人目の同性愛者の相手だった。
グローバル・ヴィレッジにいるとき、マイクが僕をじっと見ていることに気付いたのはローラだったんだ。
「ねえジョージ。あいつアンタに惚れてるわよ」
そしてローラは、マイクと僕が、もしかしてセックスするかも?ということに色めき立っていた。
でも僕は、とっても怖くて彼に近寄れなかった。
その状態は、何週間か続いた。
毎週土曜になると、僕たちはグローバル・ヴィレッジでマイクの姿を見かけていた。
彼は欲望に輝く目で、僕の全身を舐め回すように見ていた。
僕たちは彼を「バンブル・ビー(マルハナバチ)」と呼んだ。
▼参考画像「西洋マルハナバチ」
なぜって、いつもマイクは赤と黒のストライプ柄の、モヘアのジャンパーを着ていたから。
マイクは剃り上げた坊主頭で、革のズボンをはいていた。
まず初めにローラが彼に話しかけに行き、そして走って戻ってきた。
「あいつ、アンタが好きだって。ほら、話してきなよ」
身体は小刻みに震え、ぼくはオドオドと不安でいっぱいになりながら、彼に近づいて行った。
「明日の夜、二人で会わない?映画を観に行こう」
「いいね、そうしよう」
そこで日曜の夜の7時に、ウォータールー駅で彼と待ち合わせることにした。
僕らは「オーメン」を観に行った。
▼参考画像「オーメン」ホラー映画。1976年
その後、僕たちはマイクの住むフラット(アパートのこと)へ行った。
僕は完全に怯えきって、びくびくしていた。
僕がかつて経験したことといえば、二人でパーティの片隅に隠れて、手探りでゴソゴソやるだけだったし。
僕は実際に、男とベッドを共にしたことは無かったんだ。
僕は恐怖で固まっていた。
彼の目は血走って、ただならぬ気配を発しており、もはや僕の知っているマイクでは無かった。
彼は僕を殺すかもしれない。
そもそもマイクとは会ったばかりの他人だし、それに誰も僕がここにいることは分からない状態だった。
部屋に入るなり、一杯のお茶すら出してもらえず、しかも僕がベッドに入る事さえ、待ってもらえなかった。
マイクは僕に、早く服を脱ぐように急かした。
まるで着せ替え人形になったような気持ちだった。
ムードもロマンチックの欠片もない。
冷え込んだ部屋に、固くきしんだベッド。
マイクは赤毛の陰毛に、たるんだケツをしていた。
僕はもっと色んな事を期待していたのに。
翌朝、僕は複雑な気分でマイクの部屋から出た。
ようやく解放されたという安堵感と同時に、少し残念な気もしたから。
たまらなくなって、ローラに電話をかけた。
ローラをお茶に誘い、生々しくドロドロした、これまでのあらましを微に入り細にわたって話したんだ。
「そんで、アイツはあんたにしたの?」
ローラは言った。
「え?何を?」
「分かってるくせに」
「ああ。いや、その」
僕は身震いをした。
「僕はあんな老いぼれたマルハナバチなんかに、初めてを奪わせるつもりは無かったよ」
午前9時になり、ついに父さんが、僕が拘留されている警察署へ到着した。
なにやら父さんと警察官は話し込んでおり、僕は独りっきりで放置された。
その間、僕は泣きに泣いていた。
「ジョージ、一体どうしたんだ?」
父さんは僕に声を掛けた。
「父さんは僕を嫌いになっただろ。今、父さんが聞いてきた通りさ」
「いや、わしはお前を嫌ってなんかおらん。だけどな、お前の身に何が起きたのかを知りたいだけだ」
「警官から何があったのか聞かなかったの?
僕の持っていた手紙を、警官から見せられなかった?
いくら警官だって、あの手紙を読む権利はないよ。あれは僕のものだ」
父さんは僕をバンに乗せ、家に連れて帰った。
車には、兄のリチャードと、いとこのテリー・コールターが付き添いで同乗していた。
なんでこいつらを連れて来たんだ、と僕は父さんに怒った。
それから家に帰るまで、僕はずっと車の中で泣き通しだった。
次の日の夜、僕はシューターズ・ヒルにある警察署に連れていかれ、いくつかの質問と健康診断を受けさせられた。
彼らは、僕がカマを掘られたかどうかを確認していた。
すごく屈辱的だったよ。
父さんと母さんは、僕が性的いたずらに遭ったんだ、と確信していた。
父さんと母さんには、僕は同性愛者なんだ、と何度も言い続けていたのに。
どうして分かってくれないんだろう?
母さんは言った。
「なぜ今まで言わなかったの?今まで言わなかったじゃないの」
僕は何も言えずにいた。
母さんは、僕に何を言って欲しかったんだろう。
「砂糖を取ってくれる?どうせ僕は気狂いなんだ」
父さんは、僕の兄弟たちをドライブに連れ出した。
「なあ、お前たち。ジョージの事でちょいと話があるんだ。あいつは、そのう、あれだ、少し変わっているんだ」
デヴィッドは言った。
「どういう意味?面白いヤツってこと?それとも何か違うの?」
父さんはしかめ面をして身をよじり、モゴモゴと言葉を濁した。
どう言ったらいいのか、ふさわしい言葉を探しているようだった。
「まあな、ジョージはお前たちと少し違うって事は分かっているだろう」
デヴィッドは意地悪く茶化した。
「いや?僕らは何も分からないね。
だけど、父さんはジョージが変態だって言うなら、それはみんな知ってるけどね」
それからというもの、家の中の空気は重くよどんで、サイアクな雰囲気だった。
僕は晒し者になった気分だった。
母さんなんて、数日間は僕と面と向き合って、話そうとすらしなかった。
母さんは、もう二度とマイクに会わないようにと、僕に約束をして欲しがった。
それは出来ない、と僕は突っぱねた。
「そのマイクってひとは、どんな男なの?まさか一人で会わないだろうね?お前と同い年の、男の子たちと一緒だろうね?」
「母さんはね、もうその男に会って欲しくないと言っているんだよ。聞こえているのかい?」
父さんは、その件については一切ふれなかった。
僕がウェストエンドに行こうとすると、毎回、必ず母さんとケンカになった。
「母さんは信じているわ。お前がそこで何もしていないって。ただの暇つぶしなのよね?」
母さんは、どうしても心配な様子だったけれど、僕にしてみれば、母さんは僕を支配下において、僕の楽しみを奪おうをしているみたいだった。
僕は生意気なのか、それとも反抗期だったせいか、母さんの気持ちなど、まったく意に介さなかった。
「僕の事はもういいよ」
きっと母さんは、僕がゲイだから、僕の事を嫌っているんだと決めてかかっていた。
「分からない?母さんはね、お前を大事に思っているからこそ、あそこへは行かせたくないの」
「母さんはさ、僕が誰かと一緒にどこかへ行ってしまうとでも思ってるの?」
「そうは言ってないわ。お前よりもっとわきまえている人と一緒が良いって言っているのよ」
僕と母さんの攻防は、数週間も続いた。
最終的に、母さんは折れたような素振りを見せてきた。
「お前にね、渡したいものがあるんだよ。お前の机の、引き出しの中に入れて置いたから」
それは一枚のレコードだった。
ロッド・スチュアートの「ザ・キリング・オブ・ジョージ―」の。
『ジョージー少年はゲイだったろうけど
だからどうしたというんだ、それ以上でも、以下でもない
あいつはゲイとして時代を生き、そして犠牲になったんだろう』
▼参考動画。ロッド・スチュアートの「ザ・キリング・オブ・ジョージー」
ジョージー・ボーイ(ジョージー少年)がゲイとして華やかに行き、不慮の事故ではあっても、ならず者に殺されてしまう歌詞です。
そして僕は、再びマイクに会いに行った。
僕は朝、新聞配達のバイトをする事になっていたときに、彼の家に立ち寄ったんだ。
いつも、後ろから警察官が付いてきているのではないかと、びくびくしていたよ。
それはマイクも同じだった。
最初は、マイクは相当オシャレな人だと思ったんだ。
彼は60ポンドもするセックス(ブランド名)のジャンパーを持っていた。
マイクは流石だな、と僕はひたすら感心していた。
だけど実際は、ただパンクを装ってるだけの偽物だった。
ある月曜日の朝。
僕はマイクの仕事着姿が見られると楽しみにしていたんだ。
僕が目にした彼の着ていたものは、ポリエステル製で青いピンストライプのスーツ、白いワイシャツ、学用ネクタイ、ハッシュパピー(ブランド名)の靴。
僕はギョッとしてしまった。
本当に腹を立てた出来事は、それとは別のことだった。
マイクは出掛けるときに、僕にも彼と一緒に部屋を出て欲しいと言っていたんだ。
マイクは親切で、僕を信頼して言っているものだと思っていた。
翌週の土曜日、マイクは買い物に出かけるから、その間はベッドに横になっているように、と僕を寝かせた。
僕はマイクが出掛けたのを確認するや否や、ベッドから飛び出して、秒の速さで引き出しを開けてみた。
さらに、椅子を持ってきて、その上に立ち、ワードローブの上に押し込んである箱をいくつか引きずり出した。(訳注:押し入れの天袋のような位置にある箱です)
なんてこった!この変質者め!
その箱の中には、児童ポルノや、その関連の本、写真、雑誌などがぎっしり詰まっていた。
やがてマイクが戻ってきて、彼は僕に、なぜ台所を片付けておかなかったのか、と聞いてきた。
その一言で、僕の中で何かが弾けたんだと思う。
「僕は君の召使いごときじゃない。自分でやりなよ」
「ここに居続けるつもりなら、少しは手伝いくらいしろよ」
「まっぴらゴメンだね」
僕は自分のコートを引っ掴むと、わざとドアを荒々しく閉めて部屋を後にした。
第十章、ここまで
最初にマイクに失望する部分が、カジュアルなスーツ姿という。
そこ?と思いますが、ジョージらしい気もします。